Gothic RS

序章 Death or RPG?

全身の感覚がない。
5感が利かん。
なんともいやな感じだ、転送は。
もうすぐだと思うんだが……まあ、体感時間が長いだけなんだがね。
お、見えてきた。う〜わまぶし!坊やめ、間違えてねえよなぁ。間違えてたら全部オジャンだ。
ん?俺?俺は『相良亮』ただのしがないチンピラさ。

―――龍脈洞
岩盤をえぐりぬいたような空間。後ろでは光の粒子がきらきらと動いている。
そんな妙な場所で、栗色の髪の少年、ジャック・ラッセルは迷っていた。
この目の前に居る妙な女。銀髪に青い鎧。ん?この鎧城で見たことがあるような?まあ、そんなこたどうでもいいか。それよりもこの女の提案だ。
いきなり『逝かないか?』とか聞かれて思わずぶっとばしちゃったけど、すごい魔剣くれたしな。この自称神の女の提案、死んでたまるか!だったんだが……
「わりい、もっかい言ってくんない?」
そう、これだけは聞かなきゃならない。
「ああ、あのリドリーと言う女だろう?この前エインフェリアに勧誘したからな。すぐにでも呼べるが?」
「まじか?それはまじか?リドリーに会えるんだな!?」
「あ、ああ(さすがにすごい勢いだな……)」
少し引きながら後頭部に大きな汗をかきつつ応える。
「なに、この世界に来ようと思えばいつでも来れるしな、問題なかろう?」
「俺は……」
しばし言葉を飲み込み、迷いの無い顔を上げる。
「俺はリドリーに会えればそれでいい」
「ふふ、ならば契約は成立だな。さてと、何、痛くは無い。このグラムで突き刺せば体ごと向こうへ……」
―――光があふれた。

「うわあ!」
「な、何だ!?」
光が収束し、闇が生まれる。真っ暗な、すべての光を飲み込むような真球が空中に浮かぶ。それが何なのか、考える時間も無いまま砕け散り、一人の日本刀を腰にかけた男が石畳の床に降り立つ。
「ふいい〜着いた着いた!いやあ、だるかった。ははははは!」

さあて、愉快な愉快なゲームの始まりだぜ!ひひひひひ!

―――Jack Side
何が起きたのか?よくわからない。
ただいきなり空中が光って、次に黒い玉が現れて、でそれが砕けて男が出てきた。
……あれ?自分で言ってておかしくなってきた。
「おいレナス、あれ誰?」
「わたしにもわからん。強いことは確かだが、いや待て、そもそもどうやってココへ?ここはほかの世界とは切り離されているのに」
男があたりを見渡し、ふいにこちらに気づく。
「お!ジャック・ラッセル!てことはドンピシャか?Yahoooooooo!」
(俺を知ってる?)
ジャックは頭をひねる。
(いや、絶対会った事ない。第一あんな怪しい知り合いは居ないぞ?なんだあの真っ黒なコートは……)
いきなり両肩をつかまれる。思考を中断させられ正面を向くと、今の男が目の前にいる。
「ジャック・ラッセル。考えてることはなんとなくわかるが、お前は俺を知らんよ。ていうかあったことねえ」
「ならなんで俺を知ってる?(す、すげえいやな予感が……)」
「いや、俺らの目的のためにな、君が必要なのよ。いや、正確には君の人生が。だから調べた」
「は?」
「てわけでだ、ちょっと我慢しろ?先に謝っとく、ごめんねぇ♪」
言うや否や―――彼−リョウはジャックの唇に己のそれを重ねた。
「!―――んんんん!」
ジャックは身じろぎする。男に唇を吸われるというおぞましさ。だがそれよりも―――
(なんだ!?この何かを吸い取られるような感覚は!?やばい!なんかわからんがやばい!)
口が離れる。崩れ落ちるジャックの体。力が抜ける。ああ、なんだったんだいまのは?
「さてさて、ヴァルキリー殿?」
目の前の光景に呆然としていたレナスが突然話しを振られ、あせりながら答える。
「な、なんだ!?」
「いや、この世界の神の、あ〜イセリア、だったか?この奥でいいんだよな?」
「あ、ああ、そうだが?それがどうした?」
「いや、倒したら望みをかなえてくれるんだろ?それが目的でここにいるんだしなぁ」
にやり。そうとしか表現できない笑みを浮かべ、リョウは答えた。

―――Ryou Side
呆けているジャックとレナスを尻目に扉を開ける。
「次のやつ誰だっけ?ああ、ガブリエ・セレスタだっけ?かわいいといいなぁ」
ああ、その願いは絶対かなわないよ?うへへへへ。
「ん?誰だ今の?」
気にシナ〜イ気にシナ~イ。
「……ま、いいか。さてさて、ガブリエさあ〜ん」
「ほう、お前が挑戦者か?なかなかに強そうだな」
背後から野太い声。かわいくないことが確定する。残念!少しがっかりしながら振り返る。
「……オゥ、シット!」
腰巻にスキンヘッドの色黒のマッチョ。
「まさか変態さんが相手とは……」
「誰が変態か、誰が」
「あんただろ?何で腰巻一丁よ。まさに変「で、おぬしの名は?」
「うわ、押しつぶしやがった」
「で、おぬしの名は?」
どうやら流す気のようだ。
「はあぁ。俺はリョウ・サガラだ。あんたがガブリエ・セレスタだよな?」
「いかにも、我こそはガブリエ・セレスタ。この世界の管理者が一人。イセリアに用があるのならばまず我を倒すがいい!」
「ははっ!はなっからそのつもり♪覚悟しやがれよ?」
ゆっくりと、ただゆっくりと、左手を腰の刀にかける。親指を鍔にそえ押す。
キンッ!
右手を柄に沿え前を見る。
「逝くぜ♪」
左足を踏み込んだ。

―――Jack Side
夢を見てるのか?それならどれだけいいか。
あの変態(勝手に確定)は自分を管理者と言った。てことは少なくともこのレナスと同じぐらいは強いはずだ。そのはずだ。神と同じぐらい強いはずだ。それなのに
なぜあの男は無傷で、神と名乗った変態はずたぼろで倒れているんだ?
「さあて、ガブリエさん?もう通っていいだろ?ん?」
「ぐぅ、貴様、いったい何者だ?人間がこれほど速いはずがない!」
「Hey You!聞いてるか?通っていいよな?」
「……よかろう。先に進みイセリアと戦うが良い」
「ひひひ!何かっこつけてるのよ。ま、先に行かせてもらうわ」
刀を納め前へ。と、振り返る。
「おいジャック、リドリーに会うんだろ?さっさと行きな。まあ、見学すんなとは言わんがね」
「っ!あんたなんでそれを!?」
リョウはくくく、と嗤う。
「さっきのあれだよ。記憶を吸出した」
「さっきの?ってあれか?」
「ひひひひ!じゃあな♪」
思わず唇を押さえるジャックに笑い返し、きびすを返し次の扉へ向かう。と、それをさえぎるひとつの声。
「まて!リョウとやら!」
レナスの声。足を止め振り返る。
「なんだ?俺はさっさと次へ行きたいんだが?」
「貴様いったい何者だ?ガブリエはこれでも神だ。それをこれほど簡単に……」
「Yo−Ho−!それを知ることに意味があるか?関係ないだろ?ん?」
「しかし!」
「いいからほっとけって!意味ないよ?ま、あえて言うなら〜ん〜……魔人かな?」
「なっ!」
「さあて、ラストバトルよ〜ん♪」
リョウは扉を開いた。


―――綻びの神殿

「あら、やっと来たわね」
イセリアは振り返る。そこに運命の子が居ると思って。レナスが連れて行っうかと思ったけど大丈夫だった見たいね。ってあれ?
「あなた、誰?」
(誰なのこいつ?おかしいわ、こんなやつトゥトアスには……)
「Hoh Hoh!あんたがイセリアだよな?」
おどけた様子でリョウは問う。
「ええ、私がイセリアクイーン。この世界の創造者にして綻びの守り手」
「じゃ、あんたを倒せば願いをかなえてくれると?」
「確かに。でも変ね、ここにはジャック・ラッセルが来るはずだったのに……」
くくくく、と喉の奥で笑う。
「あいつなら世界よりも自分よりも女を選んだぜ?Too Coolだろ?」
「そう、やはり彼女が彼にとっては……ってちょっと待って。じゃあ、あなたは何なの?」
「何、とは?」
リョウは嗤う。反応を見て楽しんでいるさまがありありと浮かぶ。
「この世界は私の封じられた歪み。私が認めた入り口からは入って来れないわ。なのにあなたは!」
「はは、ははは、ははははははは!」
大きな笑い声。神という存在そのものをあざ笑うかのような笑い。
「くくく、世界は繋がってるだろ?」
「それが何?」
「同じ階層にある世界はたとえ次元が違う平行世界でも、その呼称が同じ限り繋がりを持つ」
ゆっくりと、ただゆっくりとまじめな顔で語りだす。
「ならば同じ概念を持つ世界には、それをつなぐ扉があるはずだ。それを見つければいい」
少し悲しげに微笑む。信じられないほどの哀愁がこめられた笑み。イセリアは思わずその笑みに見とれた。
「通って来ただけさ。俺の世界で“ファルニアの門”通って地獄に行き、こっちの地獄との間に“聖銃”で穴を開ける。後はこっちの地獄から出てくる。簡単だったぜ?なんせあの古城みたいにこの世界はだいぶ別世界の影響を受けてるからな」
「馬鹿な!ありえない!世界は不可侵なはずだ!管理者以外のものが門を開くなど……」
ちっちっち、と指を振る。
「現実を見な?俺は確かにお前の前に居るぜ?」
「……ぐっ」
「さて、管理者イセリアクイーンよ。その存在に課せられた制約により我と戦え。貴様は己の定めのために。俺は俺の、俺たちの望みのために」
しばしの沈黙。
「……そして彼らの願いのために」
「……いいでしょう。ならば私の世界からイレギュラーを消すために!ここで終わりにしてあげるわ!」
「くくっ、やる気になったか?では」
右手を後ろに回す。腰にぶら下がった鞘らしきものだ―ただし剣は無い―の鞘口部分に手を添える。
「来たれ【鉄塊】」
キューン、という何かの回るような音と共に鞘の少し上に魔方陣が出現する。そして布を巻かれた何かの握りの様なものが魔方陣からせり出てくる。手をかけ引き抜く。
遥かに遠き、天使に魅入られた世界で漆黒の剣士の魂と語らい受け継いだ一振の剣。妖魔の血をすすり、天使を切り落とした剣。
―それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく分厚く重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった。―
「我が名は相楽亮。二つ名は『黒の剣聖』推して参る!」


ギィン
金属がぶつかり合う音がする。金属とは二つ、鉄塊と杖。
「くっ!速い!」
「HohHoh!」
リョウの鉄塊がイセリアの杖を叩く。少し重さに振り回されているが、正確無比に振られる。
突き、振り、叩く。それだけの動きがイセリアを追い詰める。そのあまりに重く強い一撃に。
「っ!くらいなさい!」
大きく離れ、杖を構える。上空に出現する魔方陣。巨大な熱量と共に出現する隕石。
「おいおいおい!いきなりかよ!」
鉄塊を盾のように構え言霊を紡ぐ。
【暗き光放つ英雄よ!汝が聖なる黒衣を我に!】
鉄塊から黒き光が放たれる。それがリョウを包んだ瞬間、隕石が降り注いだ。

「ハア、ハア、ハア……」
煙幕がゆっくりと晴れる。
「なっ!そんな!」
そこには無傷のリョウがいた。
「Hah Hah!」
「くそっ!ならこれはどう!?」
追い詰められたイセリアが最大級の魔力を開放する。
「連発?そりゃないよ」
【ファイナルチェリオ!】
イセリアを中心に力が集まる。沸き出でる光の奔流。広がる衝撃。
広がる光の中、リョウは鉄塊を収め別の得物を抜く。
それは盾。小さな盾。真っ白な傷ひとつ無い盾。右手を覆うだけのその小さな盾を構え言霊を紡ぐ。
【守れ。力なき盾よ】
すべてが光に包まれた。


―――Jack Side
まぶしい。まぶしすぎる。すげえなこれ。
ていうか床が粉々なんだけど。……やっぱ死んじまったのかなぁ、あの男。
おお、煙が晴れてきた。お、あのイセリアとか言う神が見えてきた。すげえ息してんだけど。
「え?おい、嘘だろ?」
もうひとつの人影。そこには無傷で直立するリョウがいた。
「ネタ切れかい?Lady」
「そんな!嘘よこんなの!」
瞬間、リョウの姿が掻き消える。直後イセリアの首元に日本刀を突きつけるリョウがいた。
(いつ動いた?見えなかったぞ?)
ジャックは息を飲む。そのあまりの強さに。
リョウは言葉を紡ぐ。
「さてレディ、俺のお願い聞いてくれる?」
いつまでもおどけた様子で笑顔を浮かべた。


「聞いてもいいかしら」
イセリアは問う。ずっと気になっていたことを。
「なんだい、Sweet Heart?」
魅力的で、悲哀に満ちた笑み。
「なぜずっと私を狙わずに武器だけを狙ってたの?」
どうしてもわからなかった疑問。
「ああ、そんなの簡単」
最後までおどけた調子で彼は言った。
「美人を傷つけたらいかんだろ?」
ああ、わたしはこの男には勝てない。こんなに強くて、こんなに優しくて、こんなに悲しい男には。


リョウが望んだものは人生。ジャック・ラッセルという少年の、あまりに悲しい人生。
理由を聞いたとき、リョウは言った。
「必要なものがあってね」
それだけ言って彼は消えた。わたしの与えた運命に乗って。
今からすることは禁忌。それでもかまうものか。たとえ制約を侵してでもほしいものができた。
わたしは彼の願いをかなえる時、その運命に少しだけ手を加えた。

わたしにも、ほしいものができた。