『 RADIATA STORIES †一振りの剣† 』










 〜その光景は一枚の絵〜










 ≪―――≫

 斧を盾のようにして防御の構えをして

 今にも泣きだしそうな表情を浮かべている少女



 少女に攻撃をしようと

 丸太のような太い腕を振り下ろした体勢のモンスター



 そしてモンスターの腕を剣の面で防御している

 騎士団見習いの服を着た少年





 「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ、リドリーさん」

 泣き出してしまった子供を落ち着かせるかの様に、ゆっくりと言葉を紡ぐジャック。

 何の起伏もないその声は……なぜだか酷く安心できる響きがあった。

 リドリーは服の肩の部分で顔をゴシゴシと拭った。

 どうやら混乱は治ったようだ。

 「こいつらはオレに任せて団長達を助けるんだ」

 その丸太のような太い腕が押し付けられている剣が、震える事は無い。

 ただ止まったように動かない。

 トールビーストが力を入れてもその力の均衡は一向に崩れはしない。

 リドリーは少しの間その光景に目を奪われていたものの、頭をフルフルと横に振ってジャックに問う。

 「だが!……お前一人で…平気なの………か?」

 言葉の終わりの方は縋る様な声であった。

 「あぁ、オレより団長達の方が危険だ」

 リドリーはジャックのその言葉を聞くなり、慌ててガンツとクライヴがいる方へと首を向ける。

 防戦一方の状態だったガンツ達であったが、徐々にトールビーストの攻撃に押され始めていた。

 もう防御が崩されるのも時間の問題である。

 「オレが援護するから、リドリーさんは一直線に団長達のところに向かって走ってくれ」

 リドリーがゆっくりと頷く……その目にもう不安は無い。

 ジャックはそれを確認すると、トールビーストの腕をなぎ払った。

 トールビーストはバランスを崩し、踏鞴を踏む。

 「今だ」

 リドリーはその声に弾かれたように走り出す。

 逃がすか!と言わんばかりに、前傾姿勢をとっていたもう片方のトールビーストがリドリーを追う。

 しかし、その足はすぐに止まった。





 否 





 止まったという表現は正しくない。





 正しく表現するなら





 止められたと表現すべきであろう





 誰に?





 そんなの決まっている





 片手に奇妙な紋様が描かれた剣を持つ ――――――――――――  ジャック・ラッセルにだ















 ≪ガンツ≫

 「ぐぅぅっ!」

 こ、これ以上、防御し続ける、ことは、無理です!

 だからと言って防御を解けば、あの爪で切り刻まれてしまいます。

 どうすれば良いのでしょうか!?

 トールビーストの激しい攻撃の嵐を防御しながら考えます。

 ですが、妙案など浮かびはしません。

 その時、目の前のトールビーストが横から何かに吹き飛ばされました。

 「団長、大丈夫ですか!」

 「リ、リドリーさん……フウゥ」

 私は大きく溜め息を吐きます。

 危ないところでした。

 ですがリドリーさんは、確かもう二体のトールビーストに行く手を遮られていたはず。

 どうやってこちらに来たのでしょうか?

 「ジャックのおかげです……ジャックが援護してくれたから私はこっらに来る事が出来ました」

 リドリーさんが微笑みながら、私の頭に浮かんだ疑問の答えを教えてくれました。

 「するとジャックさんは今はお一人でトールビースト二体のお相手を!?」

 何てことでしょう!?

 急いでジャックさんを助けに行かなければ!!

 「団長、私は先にこちらのトールビーストを倒した方が良いと思います」

 焦る私に「落ち着け」と言うように案を出すリドリーさん。



 ……確かに今は冷静な判断が必要です。

 落ち着くのです、ガンツ・ロートシルト。

 まず状況を確認しましょう。

 リドリーさんに吹き飛ばされたトールビーストは立ちはしたものの、攻撃を仕掛けてこようとしません。

 どうやらリドリーさんの攻撃がダメージを与えたようです。

 私はずっと防御していたためか、トールビーストを倒す事のできる一撃を放つ体力が残っていません。

 ですがアシストはできます。

 リドリーさんはトールビーストがいつ攻撃してきてもいいように斧を構えたままです。

 余力がずいぶん残っているみたいですね。

 クライヴさんは怪我も無いみたいですし、アシスト位はできるはずです。

 ジャックさんは二体のトールビーストを相手にしているとのこと。

 ……確認終了です。

 私は大剣を持ち、大きく息を吸い込みます。

 さて反撃を開始しましょうか!



 「私とクライヴさんでトールビーストの気を引きますので、

  リドリーさんは隙を見てトールビーストを倒す事のできる一撃を放ってください。

  正直、この作戦は三人のうち誰かがミスをすれば失敗に終わります。

  もちろん、作戦の失敗は私達の死という事です。

  よって失敗は許されません……全員で地の谷に行きましょう!」

 二人に作戦を伝えるのと同時に激励をします。

 現状で私たちが行なえる作戦はこれしかありません。

 クライヴさんが私の右隣にきます。

 「オラ、ここで死にたくねぇから精一杯やるべ!」

 リドリーさんが前傾姿勢になります。

 「団長、絶対に勝ちましょう!」

 クライヴさん……

 リドリーさん……

 「では……行きますよ!!!」















 ≪リドリー≫

 団長が声を出すのと同時にトールビーストへと向かって走る。

 クライヴも走り出す。

 私は斧を地面に突き刺し、両手で自分の頬を叩く。

 この頬を叩くのは癖のようなものだ。

 これをすると気合が入るのと同時に、集中力が高まる。

 私なりの精神統一だ。

 トールビーストを見る。

 ……さぁ、後は団長達がトールビーストに隙を作るだけだ。



 団長がトールビーストの右足をその大剣で切り裂く。

 右足から鮮血が勢い良く飛び、トールビーストが咆哮をあげる。

 あの凶悪な腕を振り上げ、団長に向かって振り下ろす。

 『グオォォォォオンンンッッッ!!!』

 団長の大剣がその腕を受け止めるのと同時に、凄まじく鈍い音が辺りに響き渡る。

 ギリギリギリ……と音が鳴りそうな程の力と力のぶつかり合い。

 その壮絶な力比べをしている団長の横を通り、トールビーストの右後方へと回り込むクライヴ。

 クライヴがトールビーストに向かって毒薬玉を投げる。

 『ヒュルルルルゥ〜』

 と、そんな擬音がしそうな程、見事な弧を描きながら飛んでいく毒薬玉。

 そして……見事トールビーストの顔へと着弾した。

 『ガチャァアン!』

 玉のような入れ物が割れ、中から緑色の毒薬が飛び散る。

 毒薬がついた部分から何かが腐っていくような、焼けていくような匂いがする煙がでる。

 トールビーストは毒薬の余りの激痛のためか、顔を両手で押さえて後退する。



 「今だっ!」

 地面に突き刺していた斧を引き抜く

 体を軸にし、何度も回転する

 グルグルと景色が流れる

 両足に力の全てを込め、回転を止める

 余りの急激な停止行為に、足元の地面が削れて砂煙があがる

 視界にヤツの……トールビーストの姿が入る

 持っていた斧を全力で放り投げる



 ――――――― これで終わりだあああっっっ!



 「 ワイルドピッチイィィィイッッッ!!!」














 ≪レナード≫

 「 ワイルドピッチイィィィイッッッ!!!」

 リドリー様の声と同時に、手から斧が離される。

 回転する斧が凄まじい速さで空を切っていく!

 ガンツ団長と…クライヴだったか?

 二人がトールビーストから離れる。

 トールビーストは未だ両手で顔を押さえたままだ。










 『 ド ォ グ シ ャ ァ ァ ァ ア ア ア ア ! ! ! 』










 トールビーストの胸の部分にリドリー様の投げた斧が命中した





 肉が潰れ 骨が砕け 鮮血が飛び





 そのままトールビーストは倒れた





 普通、トールビーストは見習い騎士ならば二〜三人で攻撃し、ようやく倒せるものなんだが……

 さすがはリドリー様と言ったところか……どう見ても一般騎士かそれ以上の実力だろうな。

 それにしてもジャックは大丈夫なのだろうか?

 オレは昨日から部屋の同居人となった見習い騎士の事を心配する。

 オレはアイツのセレクションの成績知らんしな。

 もし何かのオマケで合格したとかだったら絶対にヤバイな……

 ん?

 隣にいるナツメ様が目を見開いている。

 リドリー様の、あの必殺技に驚いているのか?

 確かに凄かったが、ナツメ様の方が凄いと思うのだがなぁ?

 「ナツメ様、何かありましたか?」

 とりあえず聞いてみよう。

 ナツメ様とも話せるし。

 「…ん……すか?」

 ナツメ様が絞るように声を出す。

 これはただ事じゃないぞ!

 「ナツメ様どうしたんですか!リドリー様に怪我でもあったのですか!?」

 オレは焦ってつい大きな声を出してしまった……だがそんな事はどうでもいい!

 もしリドリー様が怪我をしていたなら、あのバカ親がギャースカ、ギャースカとナツメ様に文句を言うはず!

 ナツメ様はあの方に惚れてるから精神的にとても堪えるはずだ!

 好きな人の悲しい顔を見るなんてオレはイヤだぞ!

 この際、尾行がバレても構いはしない!

 オレは茂みから出ようとする……が服が引っ張られ前に進む事が出来ない。

 「あの〜、ナツメ様。これではリドリー様のところへ行けないのですが?」

 服を引っ張っているナツメ様に問う。

 「行ってどうするのですか!?尾行がばれてしまうじゃないですか!!」

 は?

 どういうことだ?

 「安心しなさいレナード。リドリー様には怪我はありません」

 え?

 では何故?

 「では何故あんなに深刻そうな声を出したんです?」

 そうだ

 あれはただ事じゃない雰囲気があった

 「それはリドリー様たちの見ている方向に答えがあります」

 ナツメ様はそう言って掴んでいたオレの服を放す。

 リドリー様たちの向いている方向に一体何があるんだ?

 オレは首をその方へ向ける。

 そこには信じられない光景が広がっていた……




















 ≪―――≫

 騎士見習いの服を着た少年は

 片手に剣を持ち雲一つない青空を見上げていた





 大地には赤き泉ができ

 泉の中心には体が二つ、その泉の中に首が二つ





 それは酷く美しく

 また酷く凄惨な





 その光景は ――――――――   一枚の絵




















 ≪ナツメ≫

 レナードは絶句しています。

 当然ですね……

 私でさえ余りの光景に言葉が出なくなってしまったのですから。

 レナードが私に声をかけるまで、私はこの光景に魅入ってしまっていた。

 この余りに美しく、凄惨な光景に…



 何者なのでしょうか?

 確か名は…ジャック、そうジャック・ラッセルだったはず。

 彼の実力は見習い、一般などより遥かに高い……多分、私よりも上のはず。

 私は尾行していたときに彼の姿を見ただけで戦力外だと認識した。

 理由はいたって簡単だ。

 リドリー様以外に強い見習いの騎士などいるはずが無いと。

 だが、結果はコレだ。

 外見で判断するなど、私は何て愚かな事をしたのだろう。

 見習いの服を着ていた…それだけで私より実力など下だと思っていた。

 私は…バカ者だ!

 いや、大バカ者だ!!

 私より強い者など、騎士団を探せばいるでしょう!

 城外、国外を探せば、それこそ数え切れない程いるはずです!!

 紫色山猫剣士団〔ヴィオレ・シャソヴァージュ〕の団長だからって……

 少しでも地位が上だからって……私よりも年下だからといって……その歴然たる差を見抜くことが出来なかった!!!

 優越感に浸っていたのだ!



 ――― 優越感!?

 そんなもの感じる暇があるなら鍛錬をしなさいナツメ・ナギ!

 相手の強さを感じる事が出来るくらいに強く!



 ――― 強くなりたい!

 彼の……ジャック・ラッセルのように強く!



 ――― そうよ、ナツメ・ナギ!

 あの背に追いつく事が出来なくても…あの背を追うことは出来るのだから!



 「レナード!」

 「ハ、ハィイ!」

 何を驚いているのでしょうか?

 いえ、今はそんな些細な事はどうでもいいです!

 「城へ戻りますよ!レナード!!」

 そう、一刻も早く城へ帰り鍛錬をしなければ!

 「え”!?いや、でも、リドリー様の護衛はどうするんですか!!?」

 「護衛は必要ありません!」

 そう、必要などあるはずないでしょう

 「は?」

 レナードはわかっていないようですね…

 「ジャック・ラッセルがいるのだから大丈夫です!」

 「あ、なるほど!」

 レナード…少しは考えてください。

 ハッ!?

 それよりも早く城へ帰らねば!

 「レナード、行きますよ!」

 そう言い残し、私は走りだす。

 「あ、待ってくださいよ!ナツメ様〜!!」

 待つ事など出来ません!

 私は今よりも強くなりたいのですから!

 ――――― やっと目標を見つけたのですから!!!















 ≪ジャック≫

 どうやら団長達の方も終わったみたいだ。

 後ろに振り向き、団長達の方へと歩き出す。

 何故か団長達はオレの方をジッと凝視していた。

 何でだ?

 「どうかしたのか?」

 団長達に問う。

 「い、いぇ!何でもないんですよ、ジャックさん!!」

 団長が慌てて答える。

 …まぁいいか。

 「では団長、地の谷に向かいましょう」

 このペースなら地の谷には夕方頃に着くはず。

 「そうですね…では皆さん!地の谷に向けて再度出発です!!」

 団長が手を空へと掲げ歩きだす。

 クライヴさんは団長と並んで歩き、オレはリドリーさんと並んで歩く。

 それから10分程たった頃であろうか?

 リドリーさんがオレに話しかけてきた。

 「ジャ、ジャック」

 リドリーさんの方を見る。

 少し俯くリドリーさん。

 …なぜ?

 「リドリーさん、どうかした?」

 聞いても返事は返ってこない。

 何かあったのかな?

 「……リーと………れ」

 ん?

 良く聞こえなかった。

 「すまないリドリーさん、もう一度言ってくれないか?」

 今度は聞き逃さないために耳を澄ます。

 「リドリーと呼んで…くれ」

 今度は聞こえた。

 「それは呼び捨てでいいって事か?」

 コクリと頷くリドリーさん……いや、リドリー

 でも何で急に呼び捨てにしろと言うのだろう?

 …………………考えてみたが分からないな。

 まぁ呼び捨てにしてくれと言うのだから、そうした方が良いのだろう。

 「リドリー」

 こっちをチラリと見るリドリー

 「これでいいか?」

 「……ぁぁ」

 また俯くリドリー。

 何だ?

 地面に何かあるのか?

 むぅ……やっぱり分からないな。















 ≪リドリー≫

 熱い…

 熱い熱い…

 熱い熱い熱い…

 顔全体が沸騰した水のように熱い!

 煩い…

 煩い煩い…

 煩い煩い煩い…

 心臓の鼓動する音が爆音のように煩い!

 何でだ…?

 何でなんだ…?

 何故なんだ…?

 どうしてジャックに名を呼ばれたくらいで私はこんな状態になるんだ!

 判らない…

 解らない…

 分からない…

 私は原因不明の病気にかかってしまったのか!?

 「リドリー、そろそろ地の谷に着くぞ」

 ッ!?

 って驚いている場合じゃない!

 早く返事をしなければ変に思われる!

 「ア、ア、ワ、ワカッタ」

 何で片言なんだ私 ――――― !?










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 〜ATOGAKI〜

 ど〜もコンニチワ&コンバンワ&お久しぶりです。

 えー、期日守れないダメダメなテースです(泣

 えーと、待っていてくださった方(いるのかな?)本当に申し訳ありません(土下座

 次でようやく地の谷ですよ…とっつぁん(笑

 次回は…なるべく早くに仕上げたいです。

 誤字・脱字・感想などください(願

 では失礼します〜