NEON
GENESIS
EVANGELION

EPISODE:2
            THE BEAST

























ファーン

夜の第3新東京市に電車の走る音が響く。

わりと郊外にある高級マンション、コンフォート21に着いた僕は、ミサトさんに案内されて部屋へと向かう。

11階でエレベーターを降りて、通路を歩きながらミサトさんが言う。

「シンジ君の荷物はもう届いてると思うわ」

そう言って歩いていたミサトさんが通路の突き当たりの扉の前で止まり、スリットにカードを通す。

ドアの横には ITTSU と書かれたダンボールが3つ。

【あれがシンジの荷物か…何が入ってるんだろ?】

ピッ

「実はあたしも先日この街に引っ越してきたばっかでね」

【引っ越してきたばっかりって、どのくらい前なんだろうなぁ…へぇ、オートで証明が点くのか…】

食材の入ったビニール袋を抱えながらそんな事を考えていると…

「さ、入って」

ドアを開けたミサトさんが僕に言う。

「あ、はい…」

そう言って中に入ろうとした時にふと、あのことを思い出す。

「…ただいま」

そう言って微笑む僕の顔に一瞬、驚きの表情を浮かべつつもミサトさんは応えてくれた。

「…お帰りなさい」

バシュウウウ、ゴン

扉が閉まる。

中に入り、自分の部屋に向かおうとするミサトさんに声をかける。

「ミサトさん」

「ん? 何?」

小首をかしげながら振り向くミサトさんに玄関から言う。

「ミサトさんも…お帰りなさい」

「え?……ただいま」

そう言うミサトさんの顔はなんだか嬉しそうだった。



「まぁ〜チョッチちらかってるけど…気にしないでね」

明かりを点けながら奥の部屋に行くミサトさんが僕に言う…

【『チョッチ』?…それどころじゃないって】

目の前に広がる散乱した部屋。

テーブルの上にはビールの空き缶、酒瓶、つまみの空き袋、ラーメンどんぶり、ピザの箱。

床には引越しの際のダンボール。

そして山積みにされたゴミ、ゴミ、ゴミ。

【ていうか、なんで冬服?…この世界の日本は一年中夏のはずじゃあ…】

そんな感想を抱いているとミサトさんが奥から顔を覗かせて言う。

「あ、ゴメン。食べ物冷蔵庫に入れといて♥」

「…はい」

一応、返事はするものの…

【でも冷蔵庫って確か氷とつまみとビールだけで、しかも入れる場所無かったよな…】

「仕方ない…片付けるか」

結局、冷蔵庫に入れるのは諦めて、とりあえずテーブルの上とキッチンを片付けてその後料理を開始しようと決める。

【ゴミ袋は…っと、あった。 こういうのは意外とどこも同じようなトコにあるな…】

キッチンの下の扉を開けてゴミ袋を見つけた僕は気合を入れて行動を開始する。

「さてと…始めますか」

まず手近にあった空き缶を掴み、袋へと入れる。

「あれ? 何やってんの?」

そこへ着替えを済ませたミサトさんが戻って来た。

「なっ!……何って掃除ですよ。 取り合えず食事が出来る程度に片付けますので、ミサトさんはお風呂にでも入っててください」

タンクトップにホットパンツと言う無防備な姿を見てちょっと動揺しつつも、ミサトさんにフロを勧める。

「え? そぉ…ほんじゃま、お言葉に甘えて…」

僕の言葉に全く遠慮もせず、そう言って準備の為部屋に戻るミサトさん。

【…ミサトさんに掃除の手伝いを期待するのは無駄だったか…というか昨日合ったばかりの僕に家の掃除を任せていいのか?】

なにはともあれ僕は掃除、そして料理に勤しむ事にした。




「んぐ、んぐ、んぐ、ぷはぁ〜ッ クーーッ、やっぱ人生、この時のために生きてるようなもんね」

「ん?」

「食べないの?」

「いえ、食べますよ」

「だっめよっ、好っきキライしちゃあ!」

【しませんよ…って、そもそも僕が作ったんですから…】

「…楽しいでしょう?」

「こうやって他の人と食事すんの♥」

「…そうですね」

【そういえばあれからあんまり人と食事したことなんてあまり無かったな…学校でもいつも一人で食べてたし…】


「さて、短い間だけど…今日からここはあなたのウチなんだから」



「何もエンリョなんていらないのよ」

「…はい」

「も〜! ハイハイハイハイ辛気くさいわねぇおっとこの子でしょう? シャキッっとしなさい!シャキッと!!」

「うい」

「まっいいわ、ヤなことはおフロに入ってパーッっと洗い流しちゃいなさい」

「フロは命の洗濯よ」



「うわっ!」

『あぁ、そう言えば彼のこと忘れてたわ、新種の温泉ペンギン…名前はペンペン。もう一人の同居人よ、よろしくね〜』

「クエッ!」

「ヨロシクね、ペンペン」



「ちと、ワザとらしくハシャギ過ぎたかしら。見透かされてるのはこっちかもね」





「葛城ミサトさんか…(アニメと同じで)いい人なんだよな…」

―「フロは命のセンタクよ」―

【フロか…シンジは嫌な事を思い出す方が多いって言ってたけど…僕は今までそんなの考えた事もなかったな…シンジが思い出した嫌な事…父さんと綾波の事…】

「綾波か…」


「レイの様子はいかがでしたか?」

「……」

「午後、行かれたのでしょう…病院に」

「あと10日もすれば動ける…それまでは凍結中の零号機の再起動をとりつける予定だ」

「辛いでしょうね。…あの子たち」

『エヴァを動かせる人間は他にいない。生きている限り、そうしてもらう』

『子供たちの意思に関係なく、ですか』



ふすまに手書きで「シンちゃんの部屋」とかかれた張り紙が張ってある。

暗い部屋で横になって僕は考える…今日、いや昨日から僕に起こってしまったこの変な現象とこれからについて。

部屋にはシンジの荷物の入ったダンボールが未開封で置かれ、机の上には第一中学への転入届が置かれている。






「そう、あんな目にあってんのよ? また、乗ってくれるかどうか…」

『彼のメンテナンスもあなたの仕事でしょ?』

「恐いのよ、どう触ったらいいか、わからなくて」

「もう泣き言? 自分から引き取ると大ミエ切ったじゃない」

「うっさい!!」

ピッ

(あの時、私はシンジ君を自分の道具として見ていた…リツコと同じか)

(あの使徒を倒したというのに…)

「嬉しくないのね」






「不思議だな…知っているのに知らない天井…」



「当たり前か…」

【例えアニメとかで色々知識はあっても…実際に来た事なんて無かったんだ…】

「この街で知ってるとこなんてどこにもない…か」

【…何でココにいるんだろう?】




「頭部破損! 損失不明!」

「活動維持に問題発生!!」

「状況は!?」

「シンクログラフ反転!! パルスが逆流しています!」

「回路遮断、せき止めて!!」

「だめです!! 信号拒絶! 受信しません」

「シンジ君は!?」

「モニター反応なし! 生死不明!!」

「初号機完全に沈黙!」

「ミサトっ!」

「…ここまでね。作戦中止!!パイロット保護を最優先! プラグを強制射出して!」

「だめですっ!! 完全に制御不能です!!」

「何ですって!!」

「エヴァ再起動」

「そんな!? 動けるハズありません」

「…まさか」

「暴走…」





ウオォォォォォ





「…勝ったな」





「A.T.フィールド!?」

「初号機のは?」

「確認できません!」

「初号機もA.T.フィールドを展開! 位相空間を中和していきます」

「いえ、これはさっきとは違う…侵食しているんだわ」

「…凄い」





「自爆する気!!」




「…エヴァは?」



「…あれがエヴァの」

「…本当の姿」


『回線接続』

『システム回復。グラフ正常位置』

『パイロットの生存を確認』

『機体回収班急いで』

『パイロット保護を最優先に』

ガタン ズズ〜ン




「シンジ君…開けるわよ?」

「一つ言い忘れてたけど…あなたは人に褒められる立派な事をしたのよ。胸を張っていいわ」


「お休み、シンジ君」

「ありがとうございます…ミサトさんも、お休みなさい」

「えぇ…頑張ってね」




















つづく